住宅ローン返済中の不動産の財産分与
住宅ローンの返済中(残債あり)の不動産を離婚による財産分与する場合、事前に情報を集める必要があります。その情報にはおおきく「①不動産の価格と残債務」と「②どのような選択をするか(おもに離婚後も関係を維持する選択をするか)」が挙げられます。
①不動産の価格と残債務
住宅ローンの返済中(残債あり)の不動産を離婚による財産分与する場合、まずは次のような流れで不動産の価格と残債務の関係を確認するのが良いでしょう。
- 確認: ローン残債務の額
- 確認: ローンの対象である不動産の価格
- 比較: 不動産価格と残債務を比較
- 検討: 不動産を残すかどうかを検討
次に、それぞれの具体的な手続の内容についてご紹介します。
確認:残債務の額
今現在の残債務の額は、おそらくすぐに確認できるでしょう。
さらにもう一つ確認したいのが「仮に残債務を一括返済したときに支払う総額」です。ローン契約時には、分割をベースに金利が決まっていますが、ローン途中で一括返済する場合には、手数料を取られることが一般的です。(たとえば売却で得たお金で返済場合です。)
この手数料が予想より高額の場合があり得ますので、大まかに、その手数料を含めた残債務総額を確認しておくべきでしょう。
※場合によっては、ご融資先の金融機関に確認をするとよいでしょう。
確認:対象となる不動産の価格
不動産の価格を表す基準は、大きく4つあります。本来なら「実売価格(実際に売却して売れた金額)」が分かるのが良く、不動産業者の査定で調べるのがベストですが、まずは、自分でできる作業として対象物件の固定資産税の評価額を確認しましょう。
不動産の評価額は市区町村役場(東京23区であれば都税事務所)で固定資産評価証明書を取得できます。
※より具体的な価格を知りたい場合は、物件条件(日照、道路付、周辺状況)、取引事例などを勘案して、不動産業者に査定をしてもらうと良いでしょう。
比較:不動産価格と残債務
不動産価格と残債務を比較しましょう。
→ 不動産価格が残債務より大きい場合(アンダーローン)
→ 残債務の方が不動産価格より大きい(オーバーローン)
どちらだったでしょうか?
検討:不動産を残すかどうか
ローンの残債務(アンダーローンか、オーバーローンか)を確認した上で、そのどちらであっても、対象不動産を残すか否か(=売却等の処分をするか否か)を検討します。
以下では、「当初の不動産名義が夫、ローンの借り入れも夫」を前提として、一般的なケースにおける検討課題をご説明します。
(ア)妻が不動産に住む場合
このケースでは、次のようなパターンが想定されます。
①「不動産名義」夫→妻に変更、「住宅ローン」そのまま夫が払い続ける
検討の結果、このような選択をした場合、所有権を妻名義に変更し、住宅ローンは夫がこれまでどおり支払うこととなります。よって手続きとしては所有権移転登記のみとなります。
ただし、留意する点としては、金融機関に無断で所有権を移転するとローン約款違反となるおそれがある点です。また、仮に夫がローン返済を滞らせると、金融機関は担保不動産たるマイホーム等を差押えや競売をしますので、住居を失うリスクがある点です。
また、夫がローン返済をする以上、離婚後も関係を維持しつづける必要があるでしょう。
②「不動産名義」変更せず、「住宅ローン」そのまま夫が払い続け、妻は夫に家賃を支払わない
検討の結果、このような選択をした場合、不動産の所有権は夫のまま(=妻に移転しない)、離婚後のローン支払いも夫が引き続き行います。よって不動産やローン契約への手続は特に求められないケースです。
メリットとしては、不動産に居住する妻は、住宅ローンを支払わずに住居を確保できる点です。
デメリットとしては、上記①と同様、仮に夫がローン返済を滞らせたら差押えや競売などにより住居を失うリスク、がある点でしょう。そして夫がローン返済をする以上、離婚後も関係を維持しつづける必要があるでしょう。
③「不動産名義」変更せず、「住宅ローン」夫が払い続け、妻は夫に家賃を支払う
検討の結果、このような選択をした場合、メリットとしては毎月のローン返済額程度の金額を家賃として妻が夫に支払い、それを返済に当てることで、返済が滞ることによるリスクを軽減できます。
デメリットとしては、不動産の所有権は夫にあるため、妻がそこに居住していても、夫は自由に不動産を売却できる点です。仮に夫が第三者に売却した場合は「妻は第三者から不動産を貸りている状態」になる点です。
④「不動産名義」を夫→妻に変更、「住宅ローン」新たに妻が債務者となり返済
検討の結果、このような選択をした場合、妻が不動産も取得し、ローンも負担するので、一番すっきりと財産分与を行うことができるケースです。この場合、不動産の名義を妻に変更し、抵当権の債務者も妻に変更する手続となります。
もっとも、妻がローンの債務者となる以上、金融機関としては妻側の収入審査を求めるのが一般的で、金融機関がこの内容に合意しない可能性があります。
(イ)夫が不動産に住み続ける場合
このケースでは、次のようなパターンが想定されます。
「不動産名義」と「住宅ローン債務者」は夫のまま、妻には清算として金銭を分与
検討の結果このような選択をする場合とは、アンダーローン(不動産価格の方が大きい)のケースで多く見られます。
ここで問題となるのは、清算金をどう計算するかですが、離婚における財産分与には債務(夫婦生活のためにした住宅ローン等の借入)も対象となることを踏まえると、不動産価格から残債務を差し引いた金額が、その不動産の実質的な価値となります。
そして、その実質的な不動産価値について、財産分与(原則1/2)として妻から夫に対して金銭を請求します。
【例】 不動産価格が2000万円、住宅ローン残額が1000万円
不動産の実質的価値: 2000万円-1000万円=1000万円①
財産分与額: ①×1/2=500万円
→ 夫は妻へ、財産分与(清算金)として現金500万円を渡す
(ウ)不動産を売ってしまう場合
離婚時に、これまでのマイホームに住むことを必要としない場合、もしくは離婚後も関係を維持しつづけるのが困難な場合、対象不動産の売却を検討すべきです。
この場合、住宅ローンの残債務と不動産の価格の関係がオーバーローンかアンダーローンかによって、対応も異なります。
①オーバーローンの場合
離婚による財産分与ではマイナスの財産も考慮されるのが原則です。
ですから、不動産を売却しても住宅ローンが残るオーバーローンのケースでは、理論上は残債務も財産分与の対象として妻に負担を求めることができることになりますが、現在の裁判所実務では、オーバーローンのケースで妻に借金を支払えというマイナスの財産分与は認めない方向となっています。
※もっともこの結論に不公平感があるのも否めず、実際には当事者の話し合いである程度の分配を話し合うケースも多いでしょう。
②アンダーローンの場合
不動産を売却して得たお金で住宅ローンの支払い、それでもお金が残るケース(アンダーローン)では、残った金額はそのまま財産分与の対象となります。
財産分与の割合は原則どおり2分の1である場合は、ローンを返済して残ったお金の半分を、夫は妻に渡すことになります。
不動産の売却のサポートもお任せ下さい!
当事務所にて離婚による財産分与の登記のご依頼を受けるケースにおいては、当該不動産には双方ともに居住せず、売却をして現金を分配するという事例もございます。
当事務所では、財産分与に関する手続・法律の専門家である司法書士、税務の専門家である税理士、売却の前提となる測量等の専門家である土地家屋調査士、不動産売買仲介業者等の各分野の専門家が連携することで、不動産の売却のサポートもしております。
特に、下記に該当する方は、まずはお気軽にご相談下さい。
- 離婚後のマイホームには誰も住まないので、売却したい
- 離婚後も関係を維持しつづけるのは困難なので、売却したい
- 現金で財産を分けたいので、不動産を売却したい
- 売却だけではなく、税金面などについてもフォローして欲しい
- 信頼できる不動産業者や仲介業者の知り合いがない
- 専門家を間にはさんで、冷静に不動産を売却したい